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『今日俺』大ヒットのウラには氣志團、ハイローが影響?“ヤンキーソング”の歴史を読み解く

当初、あまり注目されていなかった『今日から俺は!!』は、なぜ大ヒットしたのか?
それは戦後日本で脈々と受け継がれてきたヤンキーカルチャーが、多くの視聴者の琴線に触れたからではないかと思う。

 

『今日から俺は!!』©NTV

それを象徴するのが『男の勲章』だろう。
この曲は80年代にヒットした嶋大輔のカバーで、当時を代表するヤンキーソングだ。

 

80年代:ロックンロールがヤンキーソングに

もともと元々、ヤンキーとは、北部で暮らすアメリカ人を指す俗語だったが、日本においては、不良少年の代名詞として使われている。
そのイメージは80年代に完成し、金髪やリーゼント等の派手な髪型に、改造学ラン等の奇抜な服装に身を包んだ集団として注目され、あらゆる場所でヤンキー文化が開花した。それは音楽も同様で、ヤンキーセンスを全面に打ち出した嶋大輔の兄貴分にあたる横浜銀蝿(80~)の「ツッパリHigh School Rock’n Roll(登校編)」を筆頭にヤンキーソングとでも言うような音楽が次々と生まれた。

それは50~80年代において“ロックンロール”と呼ばれていたものである。

 

90年代:ヤンキー文化が“ダサいもの”に

エルヴィス・プレスリーが登場した1950年代から、ロックは不良が聴くいかがわしい音楽と言われ、大人が顔をしかめるものだった。逆に言うと不良がサイコーと思う音楽こそが、ロックだったと言える。

70年代ならば矢沢永吉が在籍していたキャロル(72~75年)、80年代なら横浜銀蝿(80~83年)、氷室京介、布袋寅泰が所属していたBOOWY(81~88年)、尾崎豊(83~92年)などが、不良の憧れるヤンキーソングのパイオニアだった。

しかし、ロックが全世代的なものとなりし、パンクやヒップホップといった次の世代の若者に向けた新しい音楽が登場するにしたがって、リーゼントに革ジャンといったヤンキー文化はダサいものとなり、90年代には時代遅れとなっていく。

 

90年代:ヤンキー冬の時代のヤンキーソング

そんなヤンキー不遇の90年代に、徹底してアメリカ回帰することで神話としてのヤンキーを歌ったのがBLANKEY JET CITY(ブランキー・ジェット・シティ/87~00年)である。

バンド名の由来は、メンバーが考えたという(ブランキーという市長が統治するジェットシティという)架空のアメリカの都市。ブランキーは激しいロックミュージックに乗せて、その街で起こる出来事を歌うことで、ヤンキー冬の時代のヤンキーソングとして独自の存在感を見せた。

彼らの音楽は高く評価され、椎名林檎を筆頭に後続のミュージシャンに大きな影響を与えた。しかし、ファッションやライフスタイルとしての不良文化は、ヒップホップをバックボーンとするBボーイへ移行していく。

 

00年代:ヤンキーのパロディ化

その結果、ロックをバックボーンとするヤンキー文化は00年代には衰退するのだが、その隙間を縫ってノスタルジーとしてのヤンキーを体現したのが氣志團(97年~)である。

彼らのビジュアルはリーゼントに学ランという80年代ヤンキーそのもので、歌詞も80年代ヤンキーカルチャーの引用で成立している。その存在自体が、パロディ化されたヤンキーと言えるだろう。

 

10年代:神話としてのヤンキー像

対して、古今東西の不良文化を統合することで神話としてのヤンキー像を再構築したのがEXILE (2001年~)を率いるLDHのEXILE HIROが総合プロデュースした『HiGH&LOW』(2015年~)プロジェクトだ。

テレビドラマ、映画、漫画といった他ジャンルに渡って展開された『HiGH&LOW』は、その音楽もヤンキー的で、劇中に登場する不良チームのファッションに対応する形で様々なジャンルの音楽がテーマソングとしていう形で用意されている。さながらヤンキー文化の幕の内弁当と言える豪華さである。

 

『今日から俺は!!』は時代劇だった

このように、ライフスタイルとしてのヤンキー文化は消えてしまったいくのだが、フィクションにおけるヤンキーは今も健在である。
むしろ現実から切り離されたことで、戦国時代や『三国志』の世界を愛するように楽しむことができる。

もちろん、80年代にヤンキーとして青春を送った若者が、今は親世代となっていることも大きいだろう。

つまり『今日から俺は!!』は、親子で楽しめる80年代を舞台とした時代劇だったからこそ、幅広い世代に受け入れられたのだ。

 

コメディの名手による、80年代への過剰なこだわり

脚本・チーフ演出は福田雄一。

深夜ドラマの『勇者ヨシヒコ』シリーズ(テレビ東京系)や、映画『銀魂』シリーズなどで知られるコメディの名手である。

本作のに魅力は、福田ならではのくだらないギャグと、リアルなケンカ喧嘩シーン。そして、聖子ちゃんカット、リーゼント、学ランといった、舞台である80年代の風俗を再現しようという過剰なこだわり。

作中の登場人物が結成した“今日俺バンド”が歌う「男の勲章」のライブシーンは、テロップをわざと大きめにしてあり、うし後ろでコーラスを担当する清野菜名と橋本環奈のたたずまいも含めて80年代テイスト全開で、過去の映像をそのまま使っているのではないかと錯覚しそうな懐かしさがある。

すでに失われた懐かしい過去だからこそ、ヤンキーソングは神話として歌い継がれるのだ!

 


■『今日から俺は!!』
Huluで配信中
https://www.happyon.jp/kyoukaraoreha

 


 

Editor
田島 太陽

編集者。過去に「LoGiRL」(テレビ朝日)記事コンテンツ、AKB48公式アプリ「AiKaBu」、「ももクロくらぶ 秘密の部屋」「anan×乃木坂46 SPECIAL BOOK」などの編集を担当。「ナタリー」「CINRA」「週刊プレイボーイ」「TV Bros.」「Quick Japan」などで執筆。

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